カラスと三匹

2012-09-23
nao

 そのカラスが持つ美貌といったらなかった。煌々と輝く黒い肢体、ふわりと空気に溶け込んでゆきそうな羽の一枚一枚。ふらりと脇を通り過ぎるだけで、ライオンからミジンコまで、ありとあらゆる生き物の愚かなオスどもが、盛大な鼻血を噴出しかねない。
 そうした艶やかさにしてやられたのか、実際に三匹の動物が近づいてきた。
 猿と犬と猫である。
 初めに黒いサングラスをかけた猿が、金歯をのぞかせ豪快に笑った。
「ああ――きみの美しさは、猿などとは比べ物にならない。もし君を隣に引きつれることができるというならば、おれは考え得る限り、最高のぜいたくを与えてやることができる。ぜひともおれと付き合ってはくれないか」
 その猿は周辺の仲間を威風堂々と率いる親分猿であった。胸を張って、自信に満ち満ちた様子でカラスを見下ろしていた。カラスは二枚の大きな羽で眼の辺りを覆い隠すと、恥ずかしそうにポッと頬を黒く染めて返事をした。
「わたくし、荒っぽいことが大の嫌いですの。わたくしと一緒に過ごしたいと申すのでしたら、あなた達が穏やかで大人しい動物であるということを証明してくださいな」
 猿と犬と猫は顔を見合わせた。逆に言えば、他の二匹を荒っぽいと示して蹴落とせば、ゆっくりとカラスに自分を魅入らせることができるのだ。
 これはチャンスだ。犬が声を上げた。
「こちらにいるこの子猫、これは子猫にてございますワン。猫といえば『猫を被る』ということわざの通り、これがなかなか大人しそうな子猫に見えて、実際は何を考えているのか分からない動物なのですワン」
 まあ、とカラスが羽で口元を覆う。
 対して猫は仕返しとばかりに口を開いた。
「いえいえぼくなんて話にならないニャン。恐るべきは目の前にいる犬と猿。こやつらは顔を合わせるたびに、引っ掻き回しの大ゲンカ。『犬猿の仲』と呼ばれるまでに争い、そして傷つけあう、ニャンともヒドイ動物なんだニャン」
 今度は言われた犬と猿が躍起になる。気がつけば話は「誰が一番、荒っぽいか」というものに転じていて、三匹は口論を繰り広げた。やがて取っ組み合いを始めた三者を、真ん丸のおめめで見下ろしながら、カラスが終止符を打った。
「ワタクシ、あなた達みたいな荒っぽい動物を好きではありませんの。さようなら」
 それだけを言い放って羽を広げて空へ飛び出す。思わず見惚れるような、黒い流星を描きながら、ばっさばっさと可憐な動物の姿は消えていった。後に残ったのは、見捨てられた哀れな三匹と、カァー、カァー、という間抜けな鳴き声だけだった。

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