幸せなアリス
2012-04-11
nao
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くるっと回って、ぴょんと跳ねる。身体を揺らしながら、にこにこ踊る。アリスは誰も居ない公園で楽しそうに過ごしていた。彼女は、まだ日本にきて間もない、ハーフの白人少女だ。金髪をなびかせ、おとぎ話のようなドレスを身にまといながら踊っている姿は、誰の目から見ても可愛らしいものだった。
アリスが踊るのをやめて辺りを見回すと、いつの間にやら近くのベンチに老人が座っていることに気がついた。彼女が踊っているのを笑顔で見つめていた。変なところを見られちゃった、とアリスは顔を赤らめる。恥ずかしさを紛らわせるために、片足を引いて、たいそう可愛らしく、ちょこんと頭を下げながら挨拶をした。
「おじさん、こんにちは」
「こんにちは。お嬢ちゃん、楽しそうだったね」
「だってね、今日の朝、嬉しいことがあったの!」
途端に少女の顔が明るいものになる。
「嬉しいこと?」老人が問いかけた。
「わたしね、お父さんのことが大好きなの。だけど、お父さん会社のシャチョウさんだから忙しくて。昨日だって車で出掛けて、まだ戻ってきてないの」
今度はその表情がしゅんと俯いた。
「しかも、その内、わたしとお母さんだけ日本に置いてアメリカに帰っちゃうんだって。仕事だから、って言われたけど、わたし嫌で、ずっと『アメリカに帰らないで』って怒ってたの」ころころと表情を変えていくアリスは、そこで再び笑顔を作った。「だけど今日の朝、お母さんが泣きながら教えてくれたの!」
「なにを教えてくれたんだい?」
「コウツウジコ、ってどういう意味の言葉なのかよく分からなかったんだけどね、なんかね、それが原因でお父さんが『帰らぬ人』になったんだって!」
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