GGG ~男色紳士創世記~ 第二話

2012-04-11
鬼畜先輩

序章 「就職」

 

「では、採用ということで。」

「彼」は溢れ出る喜びに浮かれていた。なんといっても正社員だ。脱・フリーター。紳士的にも素敵なことだ。

「もしもし?一之森さん?」

焦りながらも頷き、返答する。

本名、「一之森(いちのもり) 巧(たくみ)」。もはや「彼」などと持って回った言い方をする必要はない。

巧は自身の名前を誇っていた。かつては自分にその名を名乗る資格が無いと、可能な限り使わなかったほどに。

だがもはや巧を縛る枷は無い。地の文も遠慮しない。

 

民間警備会社。2025年現在、この職業は子供たちの憧れの一つだ。突如訪れた平和は、社会からあらゆる犯罪を駆逐した。そして警察機構や軍隊、警備会社は緩やかに消滅した。現在、文化的、芸術的価値の認められるものを除いて、社会には武器が存在しない。

しかし近年、再び犯罪が起こっている。暴行、傷害、誘拐未遂など。民間警備会社はそれら凶悪犯罪から市民を守る、ヒーローのような職業だ。巧の鍛え上げた肉体を振るうに相応しい職業である。

 

(防人(さきもり)警備(けいび)保障(ほしょう)…か。)

防人警備保障。犯罪を心配する必要が無い、最も平和な時代に新たに興された、最大手にして最古参の警備会社。

利益の大半を装備の充実や福利厚生に充てる、最も従業員思いの警備会社としても有名である。

(しかし…)

疑問は残る。あの「事件」から二週間。突然二次選考の通知が来た。求人に応募したのは記憶が霞むほど前のことで、ほとんど忘れてしまっていた。

なぜ今更呼ばれたのだろうか。それに何か、この会社には違和感がある。

「どうかしました?」

渋い魅力の光る、ロマンスグレーが声をかけてくる。面接官の中で最も存在感のあった男だ。

グレーのスーツに落ち着いた色合いのネクタイ。黒真珠のタイピンがセンスのよさを表している。

革靴には汚れ一つなく、足元を飾る。

白髪交じりの頭は、彼の歩んできた人生を映し出すようで、巧に淡い憧れを覚えさせた。

漆黒の眼は吸い込まれるのでは、と錯覚させるほどの深みを湛え、微笑みを浮かべるその表情は慈愛に満ちた聖者を彷彿とさせる。

スーツ越しでいまひとつ分かりにくいが、相当に鍛えた肉体をしているようだ。

その姿勢の良さが体幹筋の鍛え具合を如実に表す。

張りのあるバリトンが、健康的な印象を与える。

袖口から伸びる、スラリとした指に、美しく手入れの行き届いた爪。

全てが調和し、彼の魅力を引き立てていた。

紳士としては見習うべきだろうか。

 

「具合でも悪いの?」

「辛いようなら早めにおっしゃってくださいね。」

残る二人の面接官も声をかけてくる。両者共に女性。一人は黒髪、ショートカット。もう片方はブラウンの髪を背中まで伸ばしていた。一般的には美人なのだろう。紳士的に返事をしておく。

「では、行きましょう。」

ロマンスグレーに促され、エレベーターへ乗り込む。女性陣はいつの間にかいなくなっていた。

ロマンスグレーの美しい指がエレベーターの上を踊る。通常ではありえない操作。

(地下二十五階?)

階数表示が非常識な値を示している。このビルは地上五階建。地下など存在しないはず。

 

「騙すような形になってすまない。」

ロマンスグレーが真剣味を帯びた口調で謝罪する。

「だが、万が一にも我々のことが外部に漏れることがあってはならないのだ。」

今、その表情には決意が宿っていた。ただの民間人にはあり得ない、鋭い眼光。

(これは―――)

ここにきて、巧は違和感の正体に気づいた。

(眼だ。)

そう、眼。社内で出会う人の眼、その全てが美しかったのだ。

平和なこの社会ではなかなか見ることの出来ない、美しい眼。

戦士の眼だ。

紳士、淑女の眼だ。

その事実に気づいた直後、ロマンスグレーが立ち止まる。長い廊下の突き当たり、巨大な金属の壁の前だ。

 

「我々は邪悪を許さない。」

目の前の漢(おとこ)はただののロマンスグレーではない。

眼には強烈な意思の光が宿っている。

 

「我々は君と共に働きたかった―――君を雇った理由はそれだけではない。」

眼が惹きつけられる。絡まる視線。

 

「君を紳士と見込んで頼みがある。」

それは決意か。一瞬眼を閉じ、言い切る。

 

「世界のために、戦ってほしい。」

 

壁に切れ目が入り、光が溢れる―――

第二話 「組織(HENTAI)」

 

「『自由恋愛推進会議』、それが我々の真の名だ。」

ロマンスグレーが滔々と語る。

「警備会社はいわば副業だ。我々は平和と愛、自由恋愛のために活動している。」

そこは異様な空間だった。数百メートル四方の巨大な立方体の内部。数十名の職員が実に精力的に働いている。

見たことも無い機械と、巨大なディスプレイ、大量のコンピュータ。

それは金属の壁の向こう側。昔テレビで見たロケットの管制室のような部屋だった。

あらゆる設備が現行の数世代先を行く。十中八九、世界で最高の設備だ。

 

「我々には設備がある。戦う意思がある。」

 

声に力が籠る。意思が籠る。

 

「君には力があるはずだ。愛を、平和を守れる力が。」

 

「俺は…」

 

圧倒されている。男色紳士たる自分が。

気づけばその場の視線が集まっている。

 

(これでいいのか?)

―――熱い。

(俺は何だ?)

―――紳士。

(俺は誰だ?)

―――男色紳士。

(俺は守ることを躊躇うのか?)

―――あり得ない。

 

熱が、溢れる。

 

「―――って…」

 

「何?」

ロマンスグレーの、形の良い眉が歪む。

 

「守って、みせる。」

 

これが巧の、男色紳士の戦いの始まりだった。

 

* * *

 

「これからよろしく頼むよ。」

ロマンスグレーが声をかけてくる。

一連のやり取りで顔が紅潮している。実に魅力的だ。

「ああ、そういえば名乗ってすらいなかったじゃないか。」

照れくさそうに微笑む。素晴らしい。

「はじめまして。男色紳士。私は『防人警備保障』社長兼、『自由恋愛推進会議』議長の『防人(さきもり) 俊(しゅん)悟(ご)』だ。」

 

納得した。あの眼、あの意思。並の人物ではありえない。

 

『防人 俊悟』。一代で国内最大の警備会社を興した異才。表舞台には専ら専門のスポークスマンが出てくる。よって一般人には顔が知られていない。

 

「よろしく。」

「よろしくお願いしますね。一之森さん。」

面接官二人組が声をかけてくる。服装が制服に変わっている。妙に馴れ馴れしい。

巧の視線に気づいたのか、防人から注釈が入る。

「二人はオペレータなんだ。今後、君は彼女らと最も多く会話することになるだろうね。」

(なぜだ!なぜ、そうなる!)

無論、紳士はおくびにも出さない。

「よろしく頼む。」

笑顔は人間関係をスムーズにする。

 

「さあ、真面目な話をしよう。」

スタッフの全員と顔合わせを済ませると、防人が仕切り直した。

「説明する必要があるだろう。君は何も知らないはすだ。『Gエナジー』、『紋章』、『変態』。そして『ゲイ・エクステンド』―――全て君の持つ力だ。

把握してもらう必要がある。」

真剣な眼。

「それだけではまだ足りない。今から我々や、我々の『敵』についても知ってもらう。」

 

講義が、始まる。

 

『男色紳士・講義ノート』 《部外秘》

 

・『Gエナジー』

・謎の超エネルギー。一部の人間の精神活動に反応し、無限に発生する。その際、わずかな重力異常が発生するため、Gの文字がつけられた。ゲイの力の正体。

 

・『紋章』

・Gエナジーの超高密度結晶。結晶としているが実態は無く、便宜的にそう呼称している。発現の条件は不明。『紋章』を持つ者は自力で『変態』できる。

 

・『変態』

・フィクションなどの「変身」が近い。莫大な『Gエナジー』を体内に取り込むことよって行われる。変態時は細胞レベルで変質しているため、変態した者のことを『変質者』とも呼ぶ。体内でGエナジーの増幅が可能なため、通常のゲイの数百倍の戦闘能力を誇る。

 

・『ゲイ・エクステンド』

・巧の『変態』した姿。溢れ出る『Gエナジー』によって非常に強力な力を得ている。本質的には他のゲイとあまり変わらない。

 

・『衆道衆』

・最大の敵。衆道を極めることが目的であり、他人の迷惑は二の次。日本を活動の拠点にしており、少なくない数の市民がその犠牲となっている。

 

・『自由恋愛推進会議』

・防人警備保障を隠れ蓑にした、平和のための組織。社会に深く食い込んだ情報網や、圧倒的な化学技術、そして防人警備保障の社会的な地位などが特徴。今までは戦力的な面で衆道衆の足元にも及ばなかった。今後は男色紳士のサポートが活動の中心となる予定。

 

(―――え?)

流石におかしい。組織間の戦力図を男色紳士が塗り替えている。

疑問に気づいたのか、防人が説明を重ねる。

 

「どうにも誤解があるようだ。男色紳士、君がこの間倒した白衣のゲイ、彼の戦力は一昔前で言うと、完全武装の一個中隊と同じか、僅かに上だ。」

意味が分からない。個人の限界を超えている。

 

「そして君には、強くなれる余地がある。君の力は、まだまだ制御が甘い。」

 

(―――そこまでの力が?)

思わず自身の手を見る。見慣れた手だ。

 

「『変態』後に服が無くなったのは、まだ自分の肉体以外の認識が甘いからだ。」

 

突如として人のトラウマを抉ってくる。

 

「Gエナジーは万能に近い。その気になれば空だって飛べる。

今の君は『紋章』の莫大なGエナジーに振り回されているだけだ。

これから君には、警備の仕事と並行して制御訓練をしてもらう。できるね?」

 

「―――当然だ。」

既に覚悟は済んでいる。あとは行動するだけだ。

 

* * *

 

タタタタタタタタタタ…

規則的な音が響く。地下の広大な設備、その一室。

『変態』した一之森巧こと、我らが男色紳士。

そして床に据え付けられた大型の機関銃。

照準は正確に紳士に向けられていた。

(――――集中)

着弾音が、無い。着弾する弾丸のエネルギー全てをGエナジーで相殺しているのだ。

 

「凄い…」

黒髪のオペレータが感嘆している。

否、その場の全員がある種の感動を覚えていた。

防人を除いて。

そして無慈悲な指令が下る。

「二番から五番までのハッチを解放。その後、全力射撃。照準、ブーメラン・パンツ。」

その場が俄かに騒然となる。指示の内容は迎撃用装備の使用。

この秘密基地はその性質上、様々な防衛手段がある。

今回の場合、部屋の天井、四隅のハッチ内に格納された、対ゲイ重機関銃。メタルジャケット弾頭の弾丸が四方から毎分三千六百発ずつ降り注ぐ、非常識なものだ。

「復唱はどうした。」

明らかに本気の眼。訓練の成果が発揮され、流れるように作業が行われる。

「二番から五番までのハッチを解放!」

「全力射撃!照準、ブーメラン・パンツ!」

「「「「「ブーメラン・パンツ!」」」」」

 

(何だ…?)

Gエナジーの制御にも僅かに慣れ、余裕が出てきたころ。

部屋が僅かに震えた。

(―――――ッ!)

部屋の四隅から飛び出る、長大な銃身。照準は正確に紳士のプライドたる、ブーメラン・パンツへ。

「Gウォール!」

白い光がその身を包む。先ほどまでとは桁違いの力。鋼鉄の雨は光に阻まれ、そのブーメラン・パンツに掠ることすらない。

 

「何をするんだ!」

いくら紳士といえど今の攻撃は許せない。

ブーメラン・パンツは漢のロマン。

ブーメラン・パンツは皆の希望。

ブーメラン・パンツは紳士の嗜み。

それを狙うことは全ての紳士を侮辱することだ。

 

「目が覚めたか」

天井のスピーカーから防人の声がする。

僅かに怒りの籠る声。

 

「なぜ、今の力を最初から使わない。」

声は荒げす、しかし確かに怒りを籠めて。

 

「君の肩には人類の未来が係っている」

「君が負ければ、状況は以前に逆戻りする。いや、間違いなく悪化するだろう。」

「君が切り札なんだ。」

――――――――――眼が覚めた。

 

「次、お願いします。」

声は荒げず、意思を込めて、だ。

苛烈な特訓は深夜まで続く――――

 

* * *

 

「Gファントム!」

残像を残す超高速移動。目の前のゲイ達の背後へ回り込む。

「G・ハウル!」

咆哮。もはや音として認識されないその振動は、相手に一切の抵抗を許さない。

バックステップ。この技には十分な助走が要る。

全身の筋肉が軋む。腹筋、背筋、上腕筋、僧帽筋。広背筋、大臀筋に足背筋、足底筋群。そして大腿筋。全てが最大の効果を発揮する―――――

 

「G・キック・エクステンド!」

 

それは矢のように、槍のように。白い光を纏った男色紳士は、邪悪なゲイを薙ぎ倒す。

 

「男色紳士に負けは無い!」

 

今回で丁度十回目の出撃だ。今回はGレーダーに複数のゲイ反応があり、急行した。もはや紳士にとって並みのゲイは何体いても問題にならない。

「お疲れ様でした。回収に向かいます。」

脳内にオペレータの声が響く。この声はどちらだったか。「す…で…ね。」

「何?」

突然のノイズ音=通信異常。警戒を強める。

 

目の前に、いつの間にか人がいた。

 

「はじめまして、ゲイの人。ぼくは『HENTAI』だ。

悪いんだけど、死んでもらうよ。」

 

凶弾が男色紳士に襲い掛かる―――

第二話 「組織(HENTAI)」

Fin

《次回予告》

 

突如襲い来る謎の男。その目的とは?

世界が涙を流すとき、男色紳士は立ち上がる!

 

待て、次回!

 

次回、GGG ~男色紳士創世記~ 第三話

「紳士(HENTAI)」

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